桂の小部屋
管理人のネタ帳&ぼやき…
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鏡の前、魔法にかけられた少女のように変わっていく自身を彼女は呆然と見つめていた。
「熱かったり、キツかったりしない?」
「はい…、大丈夫…です。あの…」
「ルセリナの髪は、一見柔らかそうだけど…結構コシがあるからね」
上手く巻ければ良いんだけど。
ドワーフキャンプから現在はソル・ファレナに店を構えているドンゴに頼み、特別に作って貰ったロットを器用に巻き付けて、紋章の詠唱を始める青年を後ろに控えているミアキスは感慨深く眺めている。
「のぅ、ミアキス…。アレはナニをしておるのじゃ?」
「ルセリナちゃんの髪型を、いつもとは違う形にするのに使うんでしょうけどぉ…」
ちょっと、一般向きじゃないですねぇ。
のんびり応えるミアキスへ、ファレナの現女王たる少女は首を傾げる。
「普通に巻いているだけのようじゃが?」
「閣下は紋章術に秀で過ぎているのでぇ、軽ぅく使いこなしてますけどね。同じ事を私がやろうとしても、絶対に出来ないですよ」
ポットの水を瞬時に沸騰させたり、デザートを冷やす為に微妙なさじ加減で水の紋章を難なく使いこなす男は、何時もとは違うウェーブを描くルセリナの髪に満足気に頷く。
「お化粧もしてしまおうか?もう少し、我慢しててね」
「ぇ…、ですが……」
「ルセリナちゃぁん、閣下に全部お任せしたほうが良いですよぉ」
プロも裸足で逃げ出しちゃうくらい、綺麗な仕上がりにしてくれますから。
過去にやはり彼の手で着飾った事のあるミアキスが、彼女の為に特別に誂えた衣装を手に横に並んだ。
「本っっ当に、閣下…って何でも出来ますよねぇ」
「そうかな?」
何処から調達したのか、見覚えのない化粧品一式を並べマッサージを始めている彼の手は、淀みなく動いている。緊張の表情で固く眼を閉じているルセリナに、自身も覚えのあるミアキスはつい苦笑を零した。
「そうだぁ、姫様も閣下に髪を結って貰ったら如何ですぅ?」
「わ、妾が?」
「とっっても綺麗にして下さいますよぉ。ねぇ、閣下?」
「お願いしているようで、実は強制だろう?」
「…判っちゃいました?姫様の可愛いお姿を見たいのは、私だけじゃないと思うんですけどぉ?」
「はいはい、ルセリナが終わったらね」
「わらわ…は、別に……っ」
実は、女王としての衣装以外の洋装に興味があったリムスレーアは、綺麗にという言葉に酷く心を揺さぶられる。
髪をセットされ瞬く間に化粧を施されるルセリナは、普段以上に美しく見える。女性の美への関心は、年齢に関係なく常に心にある。それを刺激されてしまったリムスレーアに、否を唱えられる筈もない。
「迷惑…では…ない…のか?」
「まだ先になると思って、ドレスは用意していないんだけど…」
ミアキスへ何事かを耳打ちした彼は、スキップで部屋を出て行くミアキスに呆れながら薄化粧に映える紅をルセリナの唇へ乗せた。
「はい、出来上がり。ルセリナ、もう目を開けても良いよ?」
「……………ぁ」
普段は自分なりに手入れしてきた髪が、編み込まれて高い位置で結わえられている。赤いリボンに飾られた髪型に眼を瞬かせる彼女は、興奮の為にか頬を染めているリムスレーアへ向き直った。
「陛下…、あの…」
「似合っておるぞ?綺麗じゃ…」
「ありがとうございます、陛下。閣下も…、御手数をお掛けして申し訳ありませんでした」
騎士長の衣装に襷掛けしているエルシドへ、淑女へ変身したルセリナは深く頭を下げる。
「満足してくれて良かった。太陽宮を代表して出席する君を、あからさまに中傷する者は居ないと思うけど…」
未だ貴族主義の抜けない愚か者達が跋扈する街でのパーティ故、隙を衝かれない為にも彼女の装いを完璧に仕上げたつもりのエルシドである。
「警護には、カイル殿を同行させる。フェイタス竜馬騎兵団も街の外に待機して貰える様、指示してあるからね」
何が起こっても、大丈夫。
不安を一掃する微笑みを浮かべる騎士長代理へ、ルセリナも笑顔で頷いた。
「はい。お任せ下さい」
「閣下ぁー、持って来ました」
大きな衣装箱を持ち部屋に戻ってきたミアキスは、それとリムスレーアを交互に見る。
「姫様の衣装ですか?」
「外交用、では無いけど…ね」
蓋を開いた中から、上質の絹を使った見慣れぬ形の衣装が現れる。
「平時に気軽に纏えるものを、何着が縫うつもりだったんだけど…」
色や形の好みを聞いていなかったので、勝手に作ったのだと彼は衣装と小物をミアキスへ手渡した。
「着せ方は判る?」
「アオザイ…ですか?」
「ちょっとだけ改良してあるから、判らなければ合わせを結ばないで良いよ」
衝立を指す彼は、ミアキスとリムスレーアの背を押す。
「ちょっ…と、待てっ!ミアキスっ」
「さぁ、姫様。早く着替えましょうねぇ~♪」
一人で出来るとか、手を離せと藻掻く少女を引きずるように衝立の向こう側へ連れ込んだミアキスは、暴れる少女から衣装を剥ぎ取りてきぱきと着付けていく。
「わぁ、可愛いっ!」
服と同色の靴にも細かく綺麗な刺繍が施されているのに、ミアキスは感嘆する。
「閣下のお手製ですよぉ。姫様、嬉しいでしょう?」
「……っ、妾…はっ…」
「御礼、忘れちゃ駄目ですよ?」
「判っておるわっ」
「ふふ。閣下ぁ、後はお願いしまーすぅ」
ミアキスは恥ずかしがるリムスレーアの手を引き騎士長の前に立たせるが、俯く少女は耳まで赤くなっている。
「リム?気に入らなかった?」
「……そんな…事は無い」
始めて纏うタイプの衣装故、緊張しているのだと己に言い聞かせる少女は、抱き上げられて先程ルセリナが座っていた椅子へ丁重に下ろされた。
「服は後で直してあげるから、先に髪を編んでしまおう」
櫛を使って丁寧に髪を梳くエルシドは、慣れて手付きで編み込みを始める。団子状に纏められた髪へリボンを巻いて、両サイドのバランスを離れて確かめた彼は、大きな眼を更に見開いている少女の顔を覗き込んだ。
「リムスレーア…、どうしたの?」
「…随分…器用に動く…手だ…と」
「姫様ったらぁ、またまた閣下に惚れ直したんじゃありません?」
「ミーアーキースーっ!己はっ!」
椅子を飛び降りたリムスレーアは、逃げる護衛を追い駆け扉の向こうへ消える。叫び声と足音が遠ざかっていくのに、残された二人は笑みを洩らした。
「陛下の衣装の刺繍は、閣下が…?」
「んー、趣味だから」
「……………」
太陽宮で一番忙しい筈の人の、何処にそんな時間があったのか。
朱色の絹に咲いた牡丹の刺繍の出来を思い浮かべながら、ルセリナは今日まで以上に気合をいれて働く事を、密かに誓うのだった。
<坊+4主・同時間軸上/幻水5軸後閣下と陛下と淑女>
※王宮エステ?(笑)ファレナ編。当家の4主は家事だけでなく、このような特技も持っているんだぞ、という事で。女性陣のハートをがっちり掴んでいるかと、思われま…す。男性陣からは器用貧乏、と一言で称されるのですが(笑)本人は充実した日々を送っているつもりのようです(「お手を~」の流れで、ファレナでは騎士長閣下の代理をやっていたりする4主です。+で従者長も兼業しております……(笑))